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新しい日常と職場の将来

新しい日常と職場の将来

新型コロナウイルスのパンデミックは思いがけなく従来の職場環境を変容させました。世界各地の政府が厳重なロックダウンや外出制限を導入するなかで、ほとんどではなくとも多くの雇用主がオフィス環境などの従来の職場から在宅勤務などに移行せざるを得なくなりました。こうした変化は仕事というものの将来についていくつもの疑問を投げかけています。例えば、1年後に (願わくは)制限措置が完全に解除されたときには、職場の様子はどうなっているでしょうか。職場は永久に変わったのでしょうか。あるいは制限がなくなれば従来の「日常」に戻るのでしょうか。

2019年の終わりに最初の新型コロナウイルス感染症が記録されて以来、2020年6月末の時点で感染は210か国以上に広がり、世界全体で1,000万人を超える感染者が確認されています。2020年3月11日にWHOのパンデミック表明を受け、オーストラリア政府は事実上国全体をロックダウンの対象とし、「必要不可欠」とされる事業所以外は従業員の職場出勤を制限しました。

「必要不可欠でない」事業は、従業員に仕事を継続させて事業運営を続けられるように出勤以外の手段を迅速に導入しなければならなくなりました。リモートワークの環境が整備されている事業所の多くは従業員に在宅勤務を指示しましたが、一部にはこの指示が突然で、刻々変化する環境に十分対応できる技術環境や事業継続体制が整っていないところもありました。

在宅勤務への移行は速く実現しましたが、ソーシャルディスタンスによる制限で最大1年間は従業員が「通常の勤務生活」に戻らない可能性もあると予測されています。

在宅勤務の影響

パンデミックによって多くの事業は現状に適応せざるをえず、今後の勤務体制の正当な選択肢としてこの「新しい勤務環境」を検討する必要に迫られました。従来、一部のオーストラリア企業は従業員の在宅勤務にあまり積極的でなく、多くの場合、在宅勤務ができる従業員の割合は非常に少なく、その日数も週に一度や2週間に一度などに限られていました。パンデミック以前は、雇用主は合理的範囲であれば、必要な場合を除き従業員の在宅勤務を制限したり、事業所以外の場所で勤務しないように指示したりすることができました。

しかし、多くの企業はパンデミックによって刻々変化する環境に適応する以外にすべがなく、柔軟な勤務形態を許可もしくは推奨する職場文化を採用しなければならなくなりました。またパンデミックは従来の組織体制や手順を再考させ、企業は不必要な業務ステップをなくしたり、技術を利用したより効率的なアプローチをとったりするようになりました。

多くの企業では、従来よりも全体的に環境面での持続可能性を求めるようになり、技術の進歩を積極的に利用して企業全体の効率向上につながるようになりました。これが革新を誘発し、創造力の促進や雇用主と従業員間のコミュニケーションの強化も見られます。例えばロックダウン中には、一部の企業ではこれまでより積極的にメールアップデートを通じたオンラインマーケティングを実施したり、新しい広報手段としてソーシャルメディアに関与したりするようになりました。社内ではビデオ会議やインスタントメッセージソフトなどの既存インフラを土台として、効果的にチーム会議や外部顧客との会議を実施するようになっています。

在宅勤務への移行は働く親たち、特に父親たちに子供と過ごせる時間が増えるというプラスの影響をもたらしました。ロックダウン中は、在宅勤務をする父親たちは母親に代わって子供の世話を担当したり、もしくはその分担を前より増やしたり、子供に食事を与えたり子供をお風呂に入れたり、宿題を見たりといった家事をこれまでよりも多くできるようになりました。家族全員がこの新しい習慣に慣れるなかで、オンライン環境の柔軟性が働く親たちに子供の世話や休校中の自宅学習に参加することを可能にしました。従来の職場環境では、通常の勤務時間や通勤時間、職場が自宅から遠いことなどから働く親たちには制約がありました。

オーストラリア政府の対策

在宅勤務が不可能な「必要不可欠でない」事業や、政府の規制によって強制的に閉鎖された事業では、雇用主は多くの従業員を一時帰休させたり解雇したりせざるを得ませんでした。失業率はここ30年弱で最高レベルに達し、失業者数は140万人に達しています。これに対して豪連邦政府は、経済回復までの橋渡しとして雇用維持を目指した緊急経済対策を導入しました。パンデミックに対する政府のこの経済対策については本稿最後に要約されています。

将来の労働安全衛生

職場への新型コロナの影響は極めて大きく、多くの場合、従来の労働安全衛生措置ではこうした感染症のアウトブレイクに備える対策としては不十分であることが明らになりました。このため国際労働機関(ILO)は今後、労働安全衛生対策に対する変更についての勧告を出すことを目指しています。

新型コロナ感染症を例に使ってILO は、パンデミックからの職場の回復を促進し、将来の同様のアウトブレイクに備えるための短期、中期、長期的対策を策定しました。企業に対し、大規模な公衆衛生上の危機やパンデミックに具体的に対応する総合的な緊急事態準備計画をもつことを推奨しています。この計画には緊急事態に対応するために職場で素早く導入できる、迅速でコーディネートされた効果的対策がまとめられるべきです。同機関は導入する対策の例として研修や情報普及、防護服や保護具などを挙げています。

これに加えてILOは従業員とともに「事業継続計画」の作成を検討するように雇用主に求めています。この計画は緊急時における個々の事業に対する具体的なリスクを把握し、その影響を軽減するための戦略を構築することを目的としています。この計画に入れるものとしてはソーシャルディスタンスや時差出勤の導入、リモートワーク用通信技術のより頻繁な活用などが考えられます。企業はパンデミック中に従業員に影響を及ぼす可能性のある健康やメンタルヘルス、社会的影響についての対策をまとめた計画ももっておくべきでしょう。

事業再開にあたっては、企業は職場での新型コロナウイルス予防・抑制対策を作成するべきです。これには従業員間の物理的距離、衛生用品の提供、デスクや共有スペースの清掃、新しい措置に関する研修などが含まれます。

従来の職場の将来

新型コロナは在宅勤務を強制的に導入させたことで、従来の職場や勤務環境に永続的ではなくとも長期にわたる影響を及ぼす可能性があります。政府の規制が解除された時点で、以前の、従来の職場環境に戻ることに疑問を投げかけたり、在宅勤務を通常化したり、柔軟な勤務方法として提供することを積極的に進める雇用主も出てくるかもしれません。

多くの組織では最終的には従来の職場環境に戻る可能性が高いと考えられますが、事業再開によって雇用主と従業員双方がオフィス環境の利点や対面の意思疎通の良さを新たに再認識することになるかもしれません。

企業側も柔軟な勤務形態や在宅勤務の機会を増やす自由を得て、新しい産業や新しい仕事、雇用機会やキャリア形成が生まれる可能性が増えることも考えられます。多くの企業では新型コロナによって在宅勤務を実現するための技術やハードウェアへの投資を余儀なくされました。これにより従業員はこれまでよりも定期的かつ頻繁に在宅勤務ができるようになりました。こうしたリモートワーク/在宅勤務はその副産物として、家事や家族の世話を分担できる柔軟性を従業員や働く親たちにもたらすことになり、道路の渋滞や公共交通の混雑の軽減にもつながると考えられます。

今後も感染症のアウトブレイクが生じる可能性を考えると、雇用主は引き続きソーシャルディスタンスが確実に守られるようにワークステーション間の距離を例えばオーストラリアでは1.5メートルとしたり、オフィス環境内のデスク間にパーティションを設置したりするのもよいでしょう。

対面のミーティングは必要な場合だけに限り、参加者が多い場合にはビデオ会議や電話会議を活用するようになるかもしれません。全体として、オフィス内の人数を減らしたり、オフィスの大きさ自体を縮小したりする企業もあるでしょう。今後の再発予防としてそれぞれの日に出勤する従業員数を抑えるためにロスター制の導入を検討するのもよいでしょう。

留意すべき点として、在宅勤務の増加を含めた柔軟な勤務形態を継続的に実現するには、パンデミック中の在宅勤務で生じる技術面での問題を雇用主が解決できることが不可欠です。これまで在宅勤務を行ってこなかった企業では、今回この面で弱点や改善の必要な点があることが明らかになったと思われます。パンデミックによって在宅勤務が可能なことがわかったとしても、多くの企業ではこれが実行可能で永続的な選択肢となるまでには今後さらに在宅勤務をめぐる環境整備を進める必要があると考えられます。

新型コロナと同様に、世の中の状況は刻々と変化しており、従来の職場の将来を含め、将来がどんな状況をもたらすのか誰も確信をもって予測することはできません。当法律事務所は世界中の方々とともにこうした動向に引き続き注意を払ってまいりますが、このパンデミック中にもたらされた学びや機会が生んだ思いがけない新たな利点とともに、状況はまもなく「日常」に戻るものと前向きにとらえています。



2020年3月12日、オーストラリア政府は新型コロナウイルス感染症のアウトブレイク中に失業者に直接支払う手当としてJobSeeker制度を導入。この手当は新型コロナ対策として従来の失業手当に追加される一時的手当で、金額は2週間あたり550豪ドル。一時帰休された人や雇用を失った人が受けられ、この新制度に基づく手当の支払いは2020年3月30日に開始。

2020年3月30日、より多くの人の雇用を維持し、パンデミックで大きな打撃を受けた事業を助けるため、政府は1,300億ドルの予算でJobKeeper制度を導入。4月8日には国会で同制度に基づく支払い実施のための法案を可決し、雇用主への支払いは5月はじめに開始。

JobKeeper制度の下では条件を満たす雇用主はオーストラリア政府から給与補填を受けられる。金額は条件を満たす従業員一人につき2週間あたり1,500ドルで、対象期間は2020年3月30日から6か月間。次のいずれかの条件を満たせば雇用主は受給できる。

  • 年商が10億ドル未満で、売上の減少幅が前年同期(最短1か月)比で30%超
  • 年商が10億ドル以上で、売上の減少幅が前年同期(最短1か月)比で50%超
  • 非営利組織で、収入の減少幅が前年同期(最短1か月)比で15%超

オーストラリア政府は新型コロナ追跡アプリCOVIDSafeを導入。導入開始から12時間以内に120万人以上がダウンロード。このアプリは新型コロナウイルスに接触した可能性がある人に対する保健省担当者からの連絡を迅速化する。同ウィルスの陽性反応が出た人との濃厚接触者を把握するための現行の人によるプロセスを迅速化し、海外からの流入ではないコミュニティー感染を抑制することが目的。接触の可能性を効果的に知らせることができるため、接触者の家族や友人をリスクにさらすことなく接触者の隔離とテストが実施できる。アプリのダウンロードとアクティベーションは完全に任意。事実、2015年バイオセキュリティ法に基づいた決定:Biosecurity Act 2015 (Cth), the Biosecurity (Human Biosecurity Emergency) (Human Coronavirus with Pandemic Potential) (Emergency Requirements - Public Health Contact Information) Determination 2020により、同アプリの任意性が強化されている。

アーロン・グーンリーは当事務所シドニーオフィスの職場関係・労働安全グループのパートナー。ルーク・スカンドレットは同グループのシニアアソシエイト。グーンリー氏へのお問い合わせは agoonrey@landers.com.au

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